はじめに:なぜ「再婚禁止期間」が問題になるのか?
かつて民法733条では、女性だけに離婚後6か月間の再婚禁止期間が定められていました。これは、離婚後すぐに妊娠が判明した場合、父親が前夫なのか新しい夫なのか判断がつかなくなるという「父性推定」の混乱を防ぐためとされていました。
しかし、現代においてはDNA鑑定が普及し、また男性には同様の制限がないため、男女間の不平等という問題が顕在化。ついにこの制度は「違憲」かどうかが争点となり、最高裁の判断が下されることになります。
再婚禁止期間に関する最高裁判決の要旨(平成27年12月16日大法廷判決)
2015年(平成27年)、最高裁判所は、民法733条の再婚禁止期間について、100日を超える部分は憲法14条(法の下の平等)に反して違憲であるとの判断を示しました。
判決の主なポイント:
- 妊娠の有無は100日程度で判明するため、それを超える再婚制限は合理的理由がない。
- 男性には再婚禁止期間がないことと比較して、女性のみへの制限は不合理な差別。
- 100日を超える部分は違憲無効だが、100日以内の制限は合憲と判断。
この判決は、日本の民法における「性差に基づく制限」について画期的な意義を持つものでした。
判決を受けた民法改正の概要
この判決を受け、2016年6月1日に民法が改正され、女性の再婚禁止期間は「100日間」に短縮されました。
また、次のような例外も追加されました。
- 妊娠していないことが医師の診断で明らかである場合は、100日を待たずに再婚可能
- 出産済みである場合にも再婚禁止期間は適用されない
このように、現代の医学的知見や家族法の変化に対応した法整備が進められました。
憲法上の問題点:平等原則と個人の尊厳の観点から
司法書士試験では、憲法の理解が問われることが多く、この再婚禁止期間も以下の2つの条文が重要です。
憲法14条:法の下の平等
- 「すべて国民は法の下に平等であって…性別により差別されない」
- → 女性のみに設けられた制限は、性別による不合理な差別である。
憲法24条:婚姻の自由と個人の尊厳
- 「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し…個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚」
- → 離婚後も「再婚」という婚姻の自由を制限する制度は、必要最小限であるべき。
このように、再婚禁止期間は憲法14条・24条両方との関係が問われやすく、司法書士試験でも判例知識とセットでの出題が期待されます。
再婚禁止期間違憲判決が与えた影響
この違憲判断により、以下のような実務・社会的変化がありました。
1. 家事審判や戸籍実務の見直し
家庭裁判所では、再婚を希望する女性に対して柔軟に対応できるようになり、戸籍法上の再婚時期の取り扱いにも影響が出ています。
2. 男女共同参画社会の進展
旧法が持っていた「女性は妊娠するから制限が必要」という考え方が見直され、男女平等への意識改革が促進されました。
3. 立法の迅速化
違憲判決から約半年以内に法律改正が行われた点も、他の違憲判決と比べてスピード感があり、国会の対応力が注目されました。
司法書士試験における対策ポイント
再婚禁止期間の違憲問題は、以下の観点から出題が想定されます。
出題形式の例:
- 【択一】「民法733条の再婚禁止期間について、最高裁が違憲と判断した部分を選べ」
- 【記述】「憲法14条・24条の関係性について判例に基づき説明せよ」
対策のコツ:
- 民法・憲法の条文をリンクして覚える
→ 単なる記憶でなく、「制度の目的」「問題点」「改善策」を因果で整理する。 - 判例名と年月日をセットで暗記
→ 司法書士試験では「判例の年月日」が問われることもあるため、「平成27年12月16日大法廷判決」は要チェック。 - 類似の平等原則判例も確認する
→ 「嫡出子・非嫡出子の相続分差別事件(平成25年9月4日)」との比較も有効。
FAQ:よくある質問と解説
Q1. なぜ女性だけに制限があったのですか?
→ 子の父親が誰かを判断するために「重婚的出生」のリスクを避ける目的でした。しかしDNA鑑定が進んだ今では、合理性が薄れたと判断されました。
Q2. 違憲判断された制度はすぐに廃止されるの?
→ 必ずしもすぐではありませんが、多くは判決を受けて国会が法改正を行います。今回は約半年で改正されました。
Q3. 現行法での再婚禁止期間は?
→ 100日間。ただし、妊娠していないと医師が証明すれば、待たずに再婚可能です。
まとめ:再婚禁止期間の違憲判決から考える憲法と民法の交差点
再婚禁止期間をめぐる議論は、単なる家族法の問題にとどまらず、「憲法上の人権保障」「性別による平等」「法改正の実務運用」といった幅広いテーマと深く関係しています。
司法書士試験の対策としては、以下のポイントを押さえましょう。
- 再婚禁止期間の法改正前後の違い(6か月→100日)
- 憲法14条・24条との関連性
- 最高裁の違憲判断の要点
- 実務・社会的影響(戸籍・婚姻・法改正)
このテーマは、憲法と民法が交差する数少ない「横断的」な問題です。判例を通じて、制度の背景や憲法価値を理解することで、より実践的な知識が身につくでしょう。