民法

相続人は時効援用できる?共同相続と債務の扱いをわかりやすく解説!

司法書士試験では、「消滅時効」に関する問題が頻出分野となっており、特に中断・停止・援用・承認といった論点は、事例形式で複雑に問われます。なかでも、債権者や債務者の死亡によって相続が発生した場合、どのように時効の中断や援用が扱われるのか、判断に迷う受験生も多いはずです。

この記事では、実際の過去問レベルの事例を参考にしながら、消滅時効と相続人の関係について徹底解説し、試験対策に直結する知識をわかりやすく整理します。

消滅時効とは?―制度の目的と概要

まず、「消滅時効」とは、一定期間が経過することによって、債権者が権利を行使できなくなる制度です。目的は、長期間放置された権利について法律上の安定を図ることにあります。

民法での規定(第166条~第174条)

  • 原則:債権は 10年間 行使しなければ時効により消滅
  • 商事債権や定期給付債権など、短期消滅時効が定められているものもある

時効の完成を妨げる要因とは?

時効が完成するには、「一定期間が経過すること」が条件ですが、その進行を妨げる事由(中断・停止・更新)もあります。

1. 時効の完成猶予(旧:停止)

  • 未成年者・成年被後見人などの「制限行為能力者」が保護される場合など

2. 時効の更新(旧:中断)

  • 請求(裁判上の手続)
  • 差押え・仮差押え・仮処分
  • 承認(債務者が債務の存在を認める)

【本題】債務者や債権者が死亡した場合、時効の扱いはどうなる?

添付された問題文では、債務者Aが死亡し、相続人Bが債務を相続。Bが消滅時効の援用を主張できるのか?という点が争点となっています。

また、複数の共同相続人のうち一人が承認や援用を行った場合、他の相続人にもその効果が及ぶか?という点も問われています。

ここでは以下の2つのポイントを中心に整理します。

ポイント①:相続人による時効援用の可否

相続人は、原則として被相続人の地位を包括的に承継します。そのため、時効完成前に被相続人が死亡し、相続人がその債務を引き継いだとしても、時効完成後であれば援用することが可能です。

ただし、時効完成前に債務を承認していた場合などは、その承認によって時効が更新される可能性があります。

例:被相続人の死亡から5年後に相続人が督促を受けた場合

  • 相続人は「その債務を認めない」として援用を主張することができる
  • ただし、相続人が債務の一部を支払った場合などは承認となり、時効の更新が起こり得る

ポイント②:共同相続人間の効果の帰属

共同相続人が複数いる場合、一部の相続人が消滅時効を援用しても、他の相続人には当然にはその効果は及びません。

つまり、時効援用は相対的効力しか持たないというのが原則です(判例・学説の多数説に基づく)。

判例:昭和41年10月7日最高裁判決

共同相続人の一人が債権について承認をしたとしても、他の相続人にはその承認の効果は及ばない。

これは、時効の援用・承認が「形成権」であり、各相続人に固有の判断が認められるべきという実務的見解に基づいています。

よくある事例と判断の分かれ目

ケース1:Aの債務をB・Cの2人が相続したが、Bのみが承認

→ Cは時効援用が可能(Bの承認の効果はCに及ばない)

ケース2:Aの債務について、Cが請求を受けて初めて知ったが、10年以上が経過していた

→ Cは消滅時効を援用可能。請求時に承認していなければ更新も起こらない

ケース3:相続人全員が債権者に対し「一部支払う」と回答した

→ 債権者の立証が十分であれば、全員による承認とみなされ、時効が更新される可能性あり

試験対策のコツ

司法書士試験では、以下の点を整理しておくと対応しやすくなります。

条文ベースで覚えるべき知識

  • 民法166条:消滅時効の期間
  • 民法147条:時効の更新
  • 民法152条:援用
  • 民法153条:承認

判例・通説を押さえる

  • 時効援用・承認の効果は他の相続人には及ばない(相対効力説)
  • 相続人が債務を承認しても、自動的に更新とは限らない。事実関係と意思表示が重要

暗記ではなく「思考型」の対策を

条文や判例の丸暗記だけではなく、「どのような事実が、どのような法律効果をもたらすか」を具体的に理解しておくことが重要です。特に事例問題では、「いつ・誰が・何をしたか」を正確に読み取る訓練をしておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 相続放棄しても消滅時効の援用はできる?

A:相続放棄をした場合は、そもそも債務を承継しないため、援用の主体にはなりません。

Q2. 被相続人が訴訟を起こされていたら時効は中断する?

A:訴訟提起によって時効は中断されます(旧:更新)。その訴訟が終了した後、再び時効は進行を開始します。

Q3. 相続人が承認と知らずに一部支払いしたら?

A:支払行為が「債務の存在を認めた意思表示」として解釈されるかがカギです。誤認での支払いは承認とされない可能性もあります。

まとめ

  • 消滅時効は「援用」によって効力が生じるが、その援用は相続人ごとに個別に判断される
  • 一部相続人の承認や援用は、他の相続人には及ばない(相対効力)
  • 被相続人が死亡していても、相続人は債務を承継した上で、時効援用を主張できる
  • 判例知識と条文の正確な理解が、司法書士試験の得点力に直結する

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