不動産の登記実務においては、通常、建物が完成した時点で速やかに「表題登記」がされるべきです。しかし、実務では「建物が未登記のまま売却され、売却後に表題登記が入れられる」といった特殊なケースも存在します。このようなときに登場するのが「冒頭省略表示登記」と呼ばれる手続です。
この記事では、司法書士試験でも問われる「冒頭省略表示登記」の制度趣旨、手続方法、売却後に表題登記をするリスク、そして試験対策まで詳しく解説します。
そもそも「冒頭省略表示登記」とは?
冒頭省略表示登記とは、建物の表題登記の申請において、通常は「建物の所有者がその建物を建築したことを前提に、登記記録の冒頭に氏名等を記載する」形式をとりますが、他人が建築した未登記建物を売買により取得した者が、自己を表題登記の申請人として登記する場合に、建築者(旧所有者)に関する表示を省略できる制度です。
この制度により、建築者の情報が不明な場合でも、現所有者が建物の表題登記を可能にすることができます。
なぜこのようなケースが生じるのか?
通常は、建物の完成後に速やかに表題登記がされますが、以下のような事情により未登記のまま放置されてしまうことがあります。
- 小規模な増築や離れを建てたが、登記の必要性を感じず申請しなかった
- 売主が登記手続を怠っていた
- 登記コストや時間を節約しようとした
- 建築者が死亡・失踪していた
こうした中で、未登記の建物を購入した買主が、将来的に所有権保存登記や抵当権設定登記などの手続きを行うためには、まず「表題登記」を行う必要があります。しかし、通常の方法では売主名義でしか申請できないため、そこで「冒頭省略表示登記」の出番となるのです。
冒頭省略表示登記の申請要件
冒頭省略表示登記が認められるには、次の条件を満たす必要があります。
- 建物が現存しており、未登記であること
- 売買契約等により、現所有者が建物を取得したことが証明できること
- 建築者の表示が省略される合理的理由があること(例:不明・所在不明・相続人不存在など)
登記官の審査においては、現所有者が適法に建物を取得したことを証明するための資料提出が求められます。
添付書類の例
- 売買契約書
- 建物図面・各階平面図
- 建物の所有を証する書面(固定資産評価証明書、公共料金の領収書等)
- 委任状(代理申請の場合)
登記簿上の記載の特徴
冒頭省略表示登記では、通常であれば登記簿の冒頭に「建物を新築した者としてA」と記載されるところが、建築者の記載を省略して「所有者B」として直接登記されるという違いがあります。
このため、「誰が建てたか」が記録されないため、将来の登記記録の整合性に問題が生じる可能性もある点に留意が必要です。
司法書士試験で問われる論点
司法書士試験においては、以下のような観点から出題される可能性があります。
所有権保存登記との関係
建物が未登記のまま売買されると、買主は所有権保存登記を申請できません。まず「表題登記」をし、その後に「所有権保存登記」という流れになります。この流れを理解していないと、問題文を誤読する可能性があります。
他人物の建築と表題登記の申請適格
所有者と建築者が異なる場合、登記申請権限が争点になります。冒頭省略表示登記により、現所有者である買主が表題登記の申請人となれることを理解しておくことが重要です。
真実性と公信力のバランス
表題登記は、権利に関する登記の前提となるものであり、その内容の真実性は重視されます。しかし冒頭省略により建築者不詳の建物を登記することは、登記の真実性確保との関係で問題視される可能性もあるため、制度趣旨を説明できるようにしておきましょう。
実務的な注意点
- 建物が相当前に建てられている場合、建築確認が取れないこともあるため、自治体から「非課税証明書」や「家屋調書」などを取得して代替資料とする
- 所有権保存登記の際に、原因証明情報として「売買契約書の写し」や「固定資産税の課税明細書」を添付するケースがある
- 登記官によって要求される資料が異なることもあるため、事前相談を徹底する
よくある質問(FAQ)
Q. 建物の表題登記をせずに所有権移転登記はできる?
A. できません。建物の登記簿が存在しない(未登記)の場合は、まず表題登記を行う必要があります。
Q. 冒頭省略表示登記に登録免許税はかかる?
A. 表題登記は「表示に関する登記」であるため、登録免許税は非課税です。
Q. 売主が死亡していても買主が表題登記できる?
A. はい、一定の条件を満たせば冒頭省略表示登記が可能です。売買契約の存在や所有の事実を資料で立証する必要があります。
まとめ:売却後の表題登記には冒頭省略がカギ
売却後に表題登記をするという実務上やや特殊なケースにおいても、司法書士としては「冒頭省略表示登記」という制度を正しく理解し、適切な申請ができることが求められます。司法書士試験でもこのような知識は頻出テーマのひとつであり、基本から応用まで押さえておきましょう。
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