2024年、IR汚職をめぐって約10年ぶりに国会議員が逮捕され、話題となりました。「国会議員って憲法で守られてるから逮捕できないんじゃないの?」と思った方も多いのではないでしょうか。しかし、実際には一定の条件のもと、国会議員も逮捕されることがあります。
この記事では、司法書士試験でも問われやすい「国会議員の不逮捕特権」について、条文・趣旨・学説・判例の観点から徹底的に解説します。特に、試験で出題される可能性の高いポイントを意識して、3000字超えのボリュームでお届けします。
不逮捕特権とは?|憲法50条・国会法33条
まずは、条文の確認から。
日本国憲法第50条
両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期中に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
国会法第33条
各議院の議員は、院外における現行犯の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されない。
つまり、不逮捕特権の内容は以下のとおりです。
- 国会の会期中に限り、逮捕が制限される(閉会中は対象外)
- 例外は「現行犯」および「所属議院の逮捕許諾」がある場合
- 逮捕だけでなく、勾引・勾留など身体拘束全般を含む
この特権は、単なる個人の利益保護ではなく、立法機関としての機能維持を図るための制度です。
なぜ不逮捕特権があるのか?|2つの学説の対立
不逮捕特権の存在理由をめぐって、次の2つの代表的な学説があります。
①身体的自由保障説
こちらは、国会議員個人の自由を守るための制度とする立場です。警察・検察など行政府の機関が政治的に圧力をかけるために議員を逮捕する可能性があるため、そのような濫用を防ぐ必要があるとします。
②議院自律性保障説
この説は、国会という議院の機能を守るための制度と捉えます。議員が逮捕されれば国会の議決が機能不全に陥るおそれがあるため、議院の審議活動を保障するという考えです。
折衷説(通説)
近年では、どちらか一方に寄るのではなく「議員個人の自由の保護と、議院の自律的機能の維持を両立させるべき」という**折衷的な見解(通説)**が有力です。
不逮捕特権の例外と逮捕許諾の判断基準
では、実際にどのような場合に国会議員を逮捕できるのでしょうか?
院外における現行犯
現行犯逮捕であれば、議院の許可がなくても逮捕できます。これは一般市民と同じ扱いです。
議院の逮捕許諾
それ以外の場合は、所属する議院の許諾が必要です。ここで前述の学説が判断基準に影響します。
- 身体的自由保障説:逮捕が不当かどうかを判断基準とする
- 議院自律性保障説:逮捕が議院の機能に支障を与えるかどうかを基準にする
免責特権もあわせて理解しよう(憲法51条)
国会議員には、逮捕の制限に加えて、院内活動に対する免責も認められています。
憲法第51条
両議院の議員は、議員で行った演説、討論、又は表決について、院外で責任を問はれない。
これは、議会内での発言が自由に行えるようにするためのものです。発言の萎縮を防ぎ、立法府の独立性を守る重要な制度です。
司法書士試験で狙われる判例:東京地裁昭和29年3月6日決定
試験対策上、見逃せない判例があります。
事件概要
贈収賄の被疑事実がある衆議院議員Xについて、検察が逮捕許諾を求めたところ、衆議院は「逮捕期限付き」で許諾しました。Xはその後逮捕・勾留されましたが、勾留に期限がなかったため、**準抗告(刑訴法429条)**を申し立てました。
東京地裁の判断
東京地裁は、「国会の重要性に鑑みて、議員の逮捕には高度の必要性が要求される」としつつも、「議院が一度逮捕を許諾した以上は、無条件であるべき」と判断しました。結果、準抗告は棄却されました。
この判例が示すのは、
- 不逮捕特権の「許諾」は一種のチェック機能だが、刑事手続の本質には関与しない
- 一旦許諾された以上、逮捕・勾留は裁判所の手続に委ねるべき
という考え方です。
学説の対立
この点でも学説は分かれます。
学説 | 期限付き許諾を認めるか? | 主張 |
---|---|---|
身体的自由保障説 | 認める説あり | 拒否できるなら期限付きもOK |
議院自律性保障説 | 認めない説が有力 | 許諾後は司法の専権事項とする |
司法書士試験では、このような憲法上の制度に対する判例と学説の整理が問われることがあります。
実際に国会議員は逮捕されるのか?
ここで冒頭の疑問に戻りましょう。
答え:はい、逮捕されます。
ただし、以下のような制約があります。
- 会期中:議院の許諾が必要(現行犯を除く)
- 閉会中:許諾不要で逮捕可能
実際、近年も複数の国会議員が閉会中に逮捕された事例があります。ニュースに接したときは、「会期中か否か」「許諾があったか」をチェックすることで、法的背景を理解できるようになります。
まとめ|司法書士試験の対策ポイント
- 憲法50条と51条の正確な理解が必要
- 不逮捕特権は会期中にのみ適用される
- 現行犯と議院の許諾があれば逮捕は可能
- 目的に関する学説(身体的自由保障説と議院自律性保障説)の比較が狙われやすい
- 東京地裁昭和29年判決の趣旨を押さえる
- 判例の判断枠組みと、学説の対立点を自分の言葉で説明できるようにしておく