即時取得は、民法の物権変動に関する重要な制度の一つです。不動産登記制度とは異なり、主に動産取引に関わる制度ですが、その理解は司法書士試験において避けては通れません。本記事では「即時取得とは何か」「即時取得が成立するための要件」そして「試験対策としての理解ポイント」を中心に、実務や試験に役立つ情報を網羅的に解説します。
即時取得とは?
即時取得とは、取引行為によって動産を譲り受けた者が、たとえその譲渡人が無権利者であったとしても、一定の要件を満たせばその動産の所有権を取得できる制度です(民法第192条)。
たとえば、Aが盗品である時計をBに売却し、Bがそれを善意でCに販売した場合、Cが即時取得の要件を満たせば、Cはその時計の所有権を取得することになります。
この制度は、取引の安全と信頼を保護するために存在しています。では、どのような要件を満たせば即時取得が成立するのでしょうか?
即時取得の成立要件
即時取得が認められるためには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
1. 動産であること
即時取得が成立するのは動産に限られます。不動産は登記制度により権利の公示がなされるため、即時取得の対象とはなりません。
2. 平穏・公然な占有を取得すること
「平穏に」かつ「公然に」動産の占有を取得することが必要です。たとえば、深夜にこっそりと引渡しが行われた場合や、暴力・脅迫により引渡しを受けた場合はこの要件を満たしません。
- 平穏とは…暴力・脅迫などの強引な手段を用いず、穏やかに占有を取得すること。
- 公然とは…秘密裏ではなく、外部からも分かる形で占有を取得すること。
3. 占有を取得したこと
即時取得はあくまでも占有を取得した者に認められる制度です。占有の取得には、現実の引渡し、簡易の引渡し、指図による占有移転、占有改定などが含まれます。
司法書士試験でも「どの占有形態が即時取得に該当するか」が問われやすいため、占有の種類を押さえておくことが重要です。
4. 取引行為によって取得したこと
即時取得が成立するためには取引行為(売買、贈与、交換など)によって動産を取得することが必要です。したがって、遺贈・相続・時効取得など、取引的性格を欠く取得形態では即時取得は成立しません。
5. 善意・無過失であること
最も重要な要件は「善意・無過失」です。すなわち、譲渡人が無権利者であることを知らず、かつそのような事実を知らなかったことについて過失がない場合に限り、即時取得が認められます。
- 善意:譲渡人が無権利者であることを知らない。
- 無過失:そのような事実を知らないことについて、落ち度がない。
この要件が満たされていないと、たとえ他の要件が揃っていても即時取得は成立しません。
即時取得の制度趣旨と対立構造
即時取得は、「取引の安全」と「真の権利者の保護」という2つの価値が衝突する場面で登場します。
- 取引の安全を守るべき理由:流通を活性化させるため、占有者の信頼を尊重
- 真の権利者の保護を重視すべき理由:盗品や遺失物などで権利者が不利益を被る可能性がある
この両者のバランスをとる制度として、善意・無過失という厳格な要件を課した即時取得が採用されています。
試験で問われやすいポイント
司法書士試験では、即時取得の要件のうち特に以下の点が狙われやすいです。
- 「善意・無過失」かどうかの判断基準
- 占有の取得形態の具体例と即時取得の可否
- 被相続人からの引継ぎによる占有が成立するか
- 平穏・公然な占有の定義と判断基準
- 「盗品・遺失物」と即時取得の制限(民法193条・194条)
実際の事例で学ぶ:盗品の即時取得の可否
たとえば、Aが盗んだカバンをBに売却し、BからCが購入したケースで考えてみましょう。
- Cが善意・無過失で、かつ平穏・公然にカバンを取得した場合でも、民法193条により、盗品については原則として即時取得が認められません。
- ただし、盗品を取得した者が公の競売、または古物市場等から取得した場合は、即時取得が成立する可能性があります。
このように、盗品・遺失物に関する特則(民法193条・194条)は重要な試験ポイントです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 即時取得は不動産にも適用されますか?
A1. いいえ、即時取得は動産のみが対象であり、不動産には適用されません。不動産の権利変動は登記が対抗要件になります。
Q2. 無償取得でも即時取得は成立しますか?
A2. 成立します。贈与も「取引行為」に該当するため、善意・無過失など他の要件を満たせば即時取得は可能です。
Q3. 無過失かどうかはどう判断する?
A3. 具体的には、取引の相手方が不審な点を持っていないか、十分な確認を怠っていないかが基準となります。
司法書士試験対策としてのアドバイス
- 即時取得の成立要件は一字一句正確に覚えることが重要です。
- 特に「善意・無過失」「平穏・公然な占有」「取引行為」の3点は、ひっかけ問題の定番です。
- 判例や具体的事例を通して理解を深めると、記述式でも応用しやすくなります。
まとめ
即時取得は、民法上の物権変動に関する非常に重要な制度であり、司法書士試験でも頻出のテーマです。成立要件は以下の5つ。
- 動産であること
- 平穏・公然な占有を取得すること
- 占有の取得
- 取引行為による取得
- 善意・無過失
この5要件を正確に理解し、盗品・遺失物に関する例外も押さえておくことで、本試験での得点アップが狙えます。
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