2026年(令和8年)4月1日から、ついに**名義変更登記(名変登記)**が義務化されます。
不動産の名義人が引越しや結婚などで「住所」や「氏名」が変わったにもかかわらず、登記簿上の情報が古いままになっているケースは、実は非常に多いのが実情です。
これまでは登記をしなくても「不便だが罰則はなかった」のが現実でしたが、法改正により、正当な理由なく登記を怠ると5万円以下の過料が科される時代になります。
この記事では、
- 名変登記とは何か?
- 義務化の対象・期限・起算点
- 登記をしなかった場合の罰則と行政手続き
- 実務におけるリスクと対応策
- 司法書士試験での出題ポイント
を、図解イメージ・表現付きで丁寧に解説していきます。
不動産の所有者はもちろん、司法書士試験受験生や不動産関係者にとっても必須知識となる内容なので、ぜひ最後までお読みください。
名義変更登記(名変登記)とは?登記簿と現実の情報を一致させる手続き
名変登記(めいへんとうき)とは、不動産登記簿上に記載されている名義人(登記名義人)の「氏名」または「住所」に変更があった場合に、それを登記簿に反映させる手続きのことです。
こんなときに名変登記が必要
- 結婚・離婚による姓の変更(例:山田花子 → 佐藤花子)
- 引越しによる住所の変更(例:横浜市 → 川崎市)
- 法人の商号変更・本店移転
- 相続・贈与・売買により所有権が移転した後の氏名・住所変更
これまで名変登記は義務ではなく、放置されがちでしたが、その結果として「登記名義人の所在が不明」「所有者が誰かわからない」といった所有者不明土地問題が深刻化し、全国で社会問題となっていました。
なぜ名変登記が義務化されたのか?|所有者不明土地問題と法改正の流れ
所有者不明土地とは、「不動産登記簿を見ても、現在の所有者が誰なのかわからない」「登記簿に記載されている所有者に連絡が取れない」といった状態の土地です。
2023年の政府統計によると、所有者不明土地は**全国で約410万ヘクタール(九州本島より広い)**とされており、
- 公共事業の用地買収が進まない
- 土地が放置され、災害時の復旧が遅れる
- 相続人が多数になり、手続きが膠着
など、多大な行政コストと社会的損失を生んでいました。
この課題を解消するため、政府は2021年に民法・不動産登記法の大改正を行い、その一環として、
- 相続登記の義務化(不動産登記法第76条の2)
- 登記名義人の住所・氏名変更登記の義務化(同法第76条の3)
を柱とする改革を断行。
このうち後者がいわゆる「名変登記の義務化」です。
義務化の内容を図解で解説!いつ、誰が、何をしなければいけない?
義務の対象者は?
→ 登記名義人(不動産の所有者・担保権者など)本人
義務が発生するタイミングは?
→ 住所または氏名の変更があったことを「知った日」から2年以内
たとえば…
- 結婚で氏が変わった → 婚姻届の受理日が起算点
- 引っ越して住民票を異動 → 異動日が起算点
登記しなかったらどうなるの?
→ 5万円以下の過料(不動産登記法164条の3)
これは**刑事罰ではなく行政罰(過料)**ですが、行政庁から通知を受け、弁明の機会が設けられた後に課される可能性があります。
【表で整理】名変登記が必要となる主な事例一覧
変更の原因 | 名変登記の必要性 | 起算日 | 登記期限 |
---|---|---|---|
結婚による姓の変更 | 必要 | 婚姻届受理日 | 2年以内 |
離婚後の旧姓復帰 | 必要 | 氏変更届受理日 | 2年以内 |
引越しによる住所変更 | 必要 | 住民票異動日 | 2年以内 |
法人の商号変更 | 必要 | 法人登記変更日 | 2年以内 |
法人の本店移転 | 必要 | 法人登記変更日 | 2年以内 |
相続による所有権取得 | 相続登記として別義務 | 知った日から3年以内 |
実務で名変登記を放置すると何が起きるのか?
登記名義が古いままだと…
- 不動産売却ができない
- 住宅ローン・担保設定ができない
- 相続人間でトラブルになる
- 税務署から固定資産税の通知が来ない(滞納になる)
- 法務局から指導・行政通知が来る
とくに売買の場面では、登記名義人の本人確認が取れないことで契約が成立しないケースも多発しています。
【FAQ】名変登記義務化に関するよくある質問
Q1. 過去に結婚・引越しした分も対象ですか?
→ はい。令和8年4月1日以前の変更についても、**施行日から2年以内(令和10年3月31日まで)**に名変登記を行わなければなりません。
Q2.登記しなかったら即過料?
→ いきなりではありません。法務局から通知や指導が入った後に弁明の機会があり、それでも正当な理由がなければ過料が科されます。
Q3.住所変更だけならやらなくてもいいのでは?
→ いいえ、住所変更も対象です。 登記簿と本人確認書類(運転免許証など)が一致しないと、本人確認の信用性に疑問が出てしまいます。
司法書士試験ではどう出題されるか?
不動産登記法の大改正は、司法書士試験の重要論点になります。以下のような出題が予想されます。
出題が想定されるポイント
- 不動産登記法 第76条の3の読み込み(義務の発生・起算点・申請人)
- 第164条の3(過料規定)の要件と流れ
- 起案問題での具体的登記手続(必要添付書類・書式)
- 「相続登記義務化(第76条の2)」との違いを問う記述
記述式で問われそうな内容
- 結婚後に住所と氏名が変わった場合、どの登記をいつまでにするべきか
- 法人の本店移転後に登記未了となった場合の過料リスク
- 法務局からの通知が来た後、どう対応するか
名変登記の義務化対応チェックリスト【司法書士・実務家向け】
司法書士としては、以下の観点で顧客に対するアドバイス・対応が求められます。
- □ 相続登記と併せて名変登記の必要性を説明しているか
- □ 氏名・住所の変更日を確認しているか
- □ 期限内(2年以内)に申請を促しているか
- □ 登記原因証明情報(住民票、戸籍等)を確実に取得しているか
- □ 期限を過ぎた顧客には過料のリスクを説明しているか
まとめ:名変登記は「義務」になった!今すぐ確認を
改正不動産登記法の施行により、名変登記はこれまでのような「任意」ではなく、法的義務としての手続きへと変わりました。
✅記事のおさらい
- 名義人の氏名・住所が変更されたら2年以内に登記
- 令和8年4月1日から施行、過去の変更も対象
- 違反した場合は5万円以下の過料
- 登記簿と現実の不一致は大きなリスク
- 司法書士試験では改正条文の理解と手続実務が問われる
中間省略の実態とは?今も使われている手法と合法的な構成を司法書士試験目線で徹底解説