不動産取引において「中間省略登記」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。かつて広く行われていたこの登記手法は、現在では原則として認められていません。しかし、その考え方や実務への影響、そして司法書士試験における出題ポイントとしては今もなお重要なテーマの一つです。
この記事では、「中間省略とは何か?」という基本から、その仕組み・違法性・合法的な代替手段・判例・試験対策まで、徹底的に解説します。
中間省略とは?用語の意味と背景
中間省略登記の定義
中間省略とは、不動産の売買において、実際には存在した中間の売買(中間者)を登記手続において“飛ばして”省略することを指します。
たとえば、以下のようなケースです。
- A(所有者)→B(中間者)→C(最終取得者)という実際の売買があったにもかかわらず、
- 登記上はA→Cと直接移転登記を行う
これが「中間省略登記」です。
なぜ行われていたのか?
中間者であるBが登記を受けずにそのままCに転売することで、以下のメリットを得られるとされていました。
- 登記費用の節約(登録免許税や司法書士報酬が1回分で済む)
- 手続きの簡略化
- スピーディな不動産流通
現行法上、中間省略は原則として禁止されている
原因:登記の公信力と真正な登記名義の必要性
登記制度は、誰が所有者なのかを正確に公示することで、不動産取引の安全性を確保するものです。中間者が登記を経ないことで、登記記録の連続性が断たれ、第三者にとって不明確となるため、原則として中間省略登記は違法・無効とされています。
登記研究第540号などでも明確に否定
法務省の登記実務に関する解釈をまとめた『登記研究』においても、中間省略登記は「登記名義人となる正当な実体的権利関係が存在しない限り、登記はできない」とされ、否定的な立場が一貫しています。
合法的に中間省略の効果を得る方法「買戻し予約や本人名義売買」
近年は、中間省略登記そのものは否定されているものの、実質的に中間登記を省略するための合法的手法が実務では用いられています。
1. 売主から直接Cに登記を移転する方法(本人名義売買)
- 売主AがBの代理人として、Cに直接売買する方法
- 売主が「最終取得者Cの代理人」として登記手続きを行うことで、実体的にも登記上も整合性が取れる
この方法は「本人名義売買」とも呼ばれ、一定の条件を満たせば合法です。
2. 売買予約や停止条件付契約の活用
- 中間者が登記を経ずに転売することを予定しつつ、停止条件付で契約を結び、登記上はA→Cを直接実行
実務注意点
- 登記原因証明情報の整合性
- 税務上の処理
- 関係当事者全員の同意
- 購入者に対する説明義務
司法書士試験で問われる中間省略の出題傾向と対策
よくある出題パターン
- 不動産登記法における「登記原因」の適法性
- 登記名義人の真正性
- 所有権移転登記の流れと中間省略の可否
- 「通謀虚偽表示」との混同を避けるための理解
対策のポイント
- 原則違法である理由を明確にすること
- 「登記の公示機能」「登記の連続性」の観点から理由を説明できるように
- 例外的に可能な手法を整理しておくこと
- 代理・本人名義売買・停止条件付き契約など
- 過去問演習で判断力を養う
- 「中間省略登記はできるか?できないか?」を論理的に答える練習を繰り返す
体験談・実務現場から見た中間省略
不動産業者の現場から
かつては実務上、「スムーズに取引を進めるため」として中間省略が当たり前のように行われていた時代がありました。しかし現在では、法務局の審査が厳格になり、登記手続きの正確性・透明性が重視されています。
そのため、登記手続を依頼される司法書士が「中間者が存在することを確認しながらも、適法に処理できる構成をとる」ことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 中間省略登記は絶対に違法?
A. 原則として違法ですが、「本人名義売買」など、実体と登記が一致する構成をとれば合法となるケースもあります。
Q2. 所有権移転登記を直接A→Cにしたら罰則はある?
A. 登記官に却下される可能性が高く、無理に実行した場合には、登記の更正や取り消しを求められる可能性もあります。
Q3. 司法書士は中間省略の相談を受けたらどうすれば?
A. 原則的な違法性を説明したうえで、適法な手法(本人名義売買など)を提案し、適正な登記を実現することが求められます。
まとめ|中間省略は「原則NG・実務は工夫次第」で乗り越える
中間省略登記は、かつては実務上多く用いられましたが、現在では法制度や登記実務の厳格化により、原則として認められていません。
しかし、その代替手段としての「本人名義売買」や「条件付契約」などを理解しておくことは、司法書士としての職能においても非常に重要です。
司法書士試験では、「中間省略登記はできるか?」という問いに対して、単なる知識ではなく、「なぜそうなるのか」「どうすれば合法にできるか」を論理的に説明できる力が求められます。
今のうちから中間省略の背景と現在の実務対応をしっかり押さえておきましょう。
取得時効の要件とは?司法書士試験で押さえるべき重要ポイントを徹底解説